ドイツニュースダイジェスト 21 Februar 2014 Nr.972

 ドイツにいて驚かされるのは、想像以上にあらゆる外見の人々を街中で見掛けることである。肌の色や髪の色はもちろんのこと、ヒジャブと呼ばれるスカーフを頭に巻くイスラム教徒の女性も多く見掛ける。

 2011年のドイツの人口は8175万人、そのうち1596万人は移民の背景を持つ。つまり、この国に住む5人に1人が移民ということだ。今回は、ドイツの移民の歴史を紐解きながら、現在抱えている問題や今後の課題について考察したい。

戦後ドイツの移民政策の始まり

 1950年代のドイツの工業生産による好景気は「経済の奇跡(Wirtschaftswunder)」と呼ばれ、西独は深刻な労働者不足に陥った。その解決策として、主にトルコから外国人労働者(ゲストワーカー〈Gastarbeiter〉)が招かれたが、彼らは当初、長期滞在を予定しない出稼ぎ労働者と考えられていた。しかし、その多くは母国から家族や親戚を呼び寄せ、そのままドイツにとどまったのである。

 1973年のオイルショックに伴い、ゲストワーカーの募集は停止された。74年時点での外国人の割合は全体の約15%であったが、当時は外国人増にもかかわらず、彼らが経済的に自立し、社会に上手く適応していると考えられていたため、大きな社会問題にはならなかった。

ベルリンの壁崩壊と急増する難民

 東西ドイツ統一後、旧東独地域の再建が予想以上の財政負担となり、ドイツの景気は悪化した。ドイツ人失業者以上に外国人失業者が増え、彼らが失業手当や生活保護に依存する状態は、ドイツ人の反感を買うようになる。また、ユーゴスラビア紛争に代表される旧社会主義圏での紛争により、92年には44万人もの難民がドイツに押し寄せた。

 難民の急増はドイツ社会に混乱を招き、その結果、1992~93年にかけてネオナチ(ナチズムの復興を思想に掲げる人々の運動)による外国人襲撃が頻発し、統一からの10年間で100人以上の外国人が命を落としている。その一方で、看護、介護、清掃等、ドイツ人が就きたがらない職種については、外国人労働者への依存傾向が高まっていった。

ユーロ危機と移民の増加

ドイツにおける移民の出自を背景に持つ人口の割合、出典: 2011 Statistische Budesamt : Mikrozensus

 昨今、過去20年間になかったほどの移民がドイツに押し寄せている。2013年には約40万人の移民がドイツにやって来た。

 過去10年の流入者の平均が10万人前後で推移していたことを考えると、驚くべき数字である。その理由は、ドイツの好景気と近隣諸国の失業問題にあるだろう。

 移民の出身国別割合で最多を占めるポーランドの失業率は10%を超え、スペインやギリシアの失業率は25%を超えている。特に若者失業率が高いスペインからは、若者が職を求めてドイツを目指し、このような若者の中から優秀な人材を得ようという民間企業の取り組みも始まっている。

移民政策に揺れる大連立

 今年1月1日、ルーマニアとブルガリアからの移民にドイツの労働市場が完全に解放されたことから、キリスト教社会同盟(CDU・CSU)は、生活保護受給を目的にドイツへ来る「貧困移民」の急増に警鐘を鳴らした。しかし、この主張は移民に対する偏見を助長するとして非難も受けている。

 実際、国内にいる616万人の長期失業者のうち、ルーマニア人とブルガリア人を合わせた人数は全体の0.6%。生活保護や児童手当が彼らによって乱用されているという事実は報告されていない。しかしその一方で、移民が集中する地域の自治体の負担増が問題になっていることも事実だ。